大家さんと店子さん間のトラブル

~家賃払わない住人は、鍵換えて閉め出せ!~

都心に不動産を所有して、不労所得だけで生きていく、そんな暮らしができたなら…。
今、このコラムをご覧になっているあなたにも一度はこんな風に考えたことがあるのでは? 先ごろインターネット上で行われた、ある投資用不動産サイトの会員を対象とした「不動産投資に関する意識調査」の調査結果によりますと、「買い時だと思う」42.3%、「間もなく買い時が来ると思う」16.3%で、合わせると約6割の人々が不動産は今が買い時と思うと回答したそうです。東京オリンピック開催が決まった当初のあの熱気こそ冷めはしたというものの依然として不動産投資に対する期待感は大きいといえるようです。

ところで、不動産経営を考えている人や既に行っている人誰もが抱く心配の最たるものは、「自分の所有するマンションやアパートにちゃんと店子が付いてくれて、しっかり家賃を収めてくれるのか」というものです。しかし、高齢化と人口の減少に歯止めのかからなくなった昨今の日本。このような不動産オーナー達の抱く心配が現実となるケースが頻発してきているようです。 今回、コラムで扱うのは、そんな家賃の支払いについて裁判にまで発展した大家さんと店子さんの間でのあるトラブルに関するお話しです。

家賃が払えなくなったある日… エッ?部屋のカギが開かない!

運送会社に勤めているある男性がアパートの一室を住居として借り、家賃は5万円で月末に翌月分の家賃を入金する契約でした。彼は正社員として手取り20万円を超える給料を得ていましたので、普通の生活をしている分には月額5万円の家賃の支払いが負担になるものではありませんでした。ところが入居して半年後、男性は仕事上のミスにより会社から解雇を言い渡されてしまいました。やむなく別の運送会社で派遣の仕事をしていくことになりましたが、この派遣会社から与えられる仕事の数は少なく、その稼ぎは月額7万円ほどに大幅ダウンしてしまいました。結果、月末の家賃の支払いにも事欠くこととなり、家賃の支払いが10日以上滞ってしまうことが度重なりました。

このような状況が続いていたある日、いつものように男性がアパートの部屋に戻って扉を開けようとすると、扉の鍵が開きません。確かにこの鍵は自分の部屋の鍵のはず…? え~。 ただただ困惑する男性でしたが、ふと、先日のある光景が頭をよぎりました。その光景とは、アパートの大家さんと男性との電話でのやり取り。 男性「すみません、家賃がまだ払えないので…10日待ってもらえないでしょうか?」 大家さん「またですか~? 先月も言ったでしょ! 来月きちんと月末までに払ってもらえなかったら、即刻、部屋の鍵を取り換えるよ」って。 男性はやっと自分の置かれている状況(部屋から閉め出されてしまった)にガテンが行きました。「何もここまですることはないだろ~」と、呟くことしきりの彼でしたが、現に部屋から閉め出されてしまっている以上、どこか寝泊りできる場所を一刻も早く確保せざるをえませんでした。どうにか一泊1000円で宿泊できる簡易ホテルを見つけ当座をしのぐことはできましたが、アパートに戻るためには大家さんに今回の未払い家賃5万円と鍵の交換代金5000円を支払う必要がありました。

大家が勝手に鍵「を換えることは不法行為か

何とも釈然としない彼は、やむなく法律に明るい友人に今回のいきさつを話して相談に乗ってもらいました。 友人曰く、 「大家さんのやったことは居住権の侵害だよ。それって不法行為だから訴えたら賠償金が取れるよ!」 既に未払いの家賃と鍵代を支払って、アパートの部屋に戻っていた男性でしたが、依然として厳しい経済状況は変わっておらず来月の家賃を返すあてもありません。このままでいくとまたもや閉め出しをくらうのは必定。男性としては背に腹は代えられず、今回の件に関し大家さんを相手に慰謝料100万円、ホテル代1万5千円など計150万円を請求する訴訟を起こすことを決意したのでした。

この裁判では、大家さんによる鍵の交換に違法性があったかどうかが争点となりました。 「鍵の交換は居住権侵害の不法行為だ」 と主張する男性に対し、 「男性は家賃滞納の常習者で大家との信頼関係を悪化させた。家賃を支払えない場合には鍵を取り換える、と何度も警告したにも関わらず、また滞納した。私が部屋の鍵を交換したことは正当な行為だった」と大家さんは反論しました。

そして判決!  結果として裁判所が命じたのは、大家さんから男性への慰謝料50万円と男性が閉め出されて自分の部屋を使用できなかった15日間外泊せざるをえなかったホテルの宿泊代1万5000円の損害金の支払いでした。裁判所が斯様な判決に至った理由は、それ(部屋の鍵を取り換えた行為)が単に居住権侵害に当たるからということではなく、大家さんが事前に男性に対し借家契約の解除、貸室明け渡しを求めていなかったという手続き上の不備にありました。裁判所は、大家が店子に対して滞納した家賃の支払いをさせることを目的として、(しかるべき法的手続きを踏まずに)このような行為(部屋の鍵を取り換え、男性を部屋から閉め出すこと)に及んだもので、当該行為は「大家の権利行使範囲を著しく超え」、男性の「平穏に生活する権利を侵害する、不法行為である」としたと結論付けたのです。

大家さんとしてはたとえ家賃の支払いに滞りがあったとしても、定められた法的手続き経ずしては勝手に店子を閉め出す訳にはいかないのです。ここに不動産のオーナーの陥りやすい法律の穴(世間の常識と法の定めのミゾ)というものが存在しているのですね。

安心なオーナーライフのために

今回コラムでは、大家さんが法律の穴に見事に嵌ってしまったケースを取り上げましたが、逆に店子の陥る法律の穴といったものも存在します。家を貸す側も借りる側もトラブルなく円満な関係を続けたいものですが、取り巻く経済状況や生活環境など諸状況が刻々と変化し続けるのがこの世の中というものです。時として、想定外の状況に陥るといったことはいつでも誰にでも起り得ることです。そのような状況に陥らないため或は陥ってしまったようなとき、慌てることなく対処できる術を心得ているかどうか。これが安心してオーナー(ないし住人)ライフを過ごすための鍵となると思われます。安全のために扉の鍵も重要ですが法律的な鍵も心得ておくことが大切ですね。このコラムもその知恵の鍵の一つとして頂ければ幸いです。また、とっさのときに頼れる法律的な相談の窓口があるというのもまた心強いですよね。(終)

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