遺言書ラブストーリー

男女の半数以上?! 親に「遺言書を用意して!」

いわゆる「終活」に関するある調査において、30代~50代の男女の半数以上にあたる50.2%の人が「法的拘束力のある遺言書を親に用意してほしい」と答えました。「終活」という言葉に対する認知度や自身が「終活」を必要と感じているかどうかの問いについては世代間や男女間においてある程度の差があったものの、「終活」の大きなテーマである遺言書については親が亡くなる前にちゃんと遺言書を準備しておいてくれたら…という思いにほとんど差は無いようです。
もちろん誰しも死というものに対し、前もって向き合い、相談したり考えたりすることに抵抗が無いわけではないでしょう。しかし昨今、いろいろなメディアで遺産相続を巡るトラブルなどの話題を耳にする機会が多いことや漠然とした「将来における不安」を遺言書によって取り除き生活に安心をもたらすという思いもあってか、近年、遺言書に対する一般の認識が深まってきている感があります。死は誰にでも等しく訪れるものですから、100%起こる死という事態に対し、前もって真剣に考える意識が高まっているということは、むしろ社会にとって明る 傾向といえるかもしれません。

献身的看護を行った前妻に捧げる、夫からの愛

さて、今回は遺言書が絡んだあるラブストーリーともいうべきエピソードを一つご紹介致します。
55歳のNさんは居酒屋チェーンのオーナー。仕事に打ち込むあまり、ある日突然、会社の社長室で倒れてしまいました。原因は心筋梗塞。早い段階での発見から、幸い命に別状はなかったけれども入院生活を余儀なくされました。当然入院したことは秘書により家族に知らされますが、何とNさんの妻は夫の看護を拒否。見舞いにすら現れません。彼女はNさんの後妻に当たり元愛人でした。Nさんは先妻にしぶしぶ離婚を承服させ、彼女と再婚。その後二人の子供をもうけたものの、Nさんは仕事に打ち込むあまり家庭を顧みず、それに愛想を尽かした妻は、2年前に子どもを連れて家を出てしまい別居状態となりました。その後妻から離婚届がNさんのもとへと送りつけられることとなるも離婚条件がまとまらないため、未だ離婚には至っていない状態でした。
オーナーNさんの看護を拒否されてしまい、困った秘書はNさんの前妻に連絡を取りました。前妻はNさんと別れたとはいうものの別れるまでの夫婦仲は決して悪くはなかったのです。結婚してから10年経っても子どもができずにいたところ、夫と愛人の間に子が産まれた事実を知った彼女はしぶしぶではあったものの自ら身を引く形で別れていたのです。それにNさんの方も自らの責任を感じ、離婚後も前妻にずっと経済的援助を続けていました。 そういった事情もあり、前妻は秘書の頼みを快く引き受けて献身的な看護を行いました。その結果、Nさんは一ヶ月後に無事退院し、仕事に復帰することができました。
しかしながら、運命は残酷にもその半年後、Nさんを再び心筋梗塞の発作が襲い… 手当てもむなしく、彼は帰らぬ人となったのです。葬儀の後、遺品を整理していた秘書は、Nさんの執務机の引き出しの中からあるものを発見します。それはNさん名義の預金通帳数通とキャッシュカード、経営する会社の株券、そして一通の書面でした。 「私に万一のことがあれば、本件すべてを前妻S・Nにお渡し下さい」 そう書かれた書面はNさんの直筆であり、亡くなる前日の日付と、署名捺印がなされていました。
「遺言の文字こそ無いけれど…  この書面、オーナーの遺言書なのではないかしら」と 考えた秘書は、前妻にこの書面を渡すことにしました。そして前妻は、法定相続人の後妻とその子供に対して遺産の分割を求めることとなったのです。ちなみに、書面と共に引き出しに入っていた通帳や株券による合計額は、Nさんの遺産の三分の一に近いものでした。

そして裁判へ

裁判へと発展したこの件は、あいまいな表記の書面が「自筆証書遺言」として有効か、また有効とされた場合、「本件すべて」の解釈を遺産全部とするか、机の引き出しに入っていた資産に限定するかで争われました。 裁判で後妻側は、書面の表記が明確性に欠け、遺贈(遺言によってする贈与のこと)するという内容の遺言としては無効であると主張。しかし、裁判所はこの書面を、形式的に解釈するだけでは不十分であり、Nさんの置かれた状況や作成時の事情等から「Nさんの真意を読みとる必要がある」としました。そして、Nさんの看護を頼む相手が見当たらなくて困っていたとき、前妻がその依頼に快く応じてくれて手厚い看護をしてくれた結果、仕事に復帰できた、そういった時期にこの書面が作成されていたことから、「Nさんから前妻への感謝ともいうべき遺贈の意思がそこにはあった」という理由により裁判所はこの書面が「自筆証書遺言」として有効と認めたのです。 また書面の「万一のこと」「本件すべて」の意味が不明確であるという後妻の主張に対し、裁判所は、後妻側の請求を退けて、この当該書面が不明確なものとは言えず、それぞれ「自分の死」「引き出しに入っていたもの」と特定できるものとして、先妻に対し「机の引き出しに入っていた資産」に限定するものの遺産の総額の3分の1に近い遺産の分割を認めました。 かくして前妻は、法定相続人である後妻と子供らに渡るはずであったNさんの相続財産のかなりの部分を元夫からの感謝や愛情の表れともいうべき遺言書によって受け取ることとなったのです。

確実な遺言書の作成がトラブルを回避する

いかがでしたでしょうか。 このエピソードにおいては遺言書とその有効性等を認めた裁判を通して、Nさんの前妻に対する深い思いを相続財産という形で先妻に届けた訳です。いかに遺言書の存在が重要かということがよく分かるかと思います。しかしながらもう一歩踏み込んで考えるならば、そもそもこの書面が「自筆証書遺言」として法的な要件を十分満たしていたなら、面倒な裁判まで起こさずとも容易かつ確実に遺言作成人の意思を実現できたことでしょう。さらに公証役場での公証人を通し作成する「公正証書遺言」であったならなおのことです。このようなしっかりした「自筆証書遺言」や「公正証書遺言」を作成するのは、確かに面倒ですし、ある程度ご費用も掛かります。しかし、それを上回る十分なメリットもあるように思われます。煩わしいとかなかなか時間を割けないような場合には相続に詳しい法的な専門家(弁護士・司法書士・行政書士等)を活用するのも一案ですね。(終)

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